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【芝居の見どころ】「日尾嶽山誉寒梅」鑑賞ポイント

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 ついに今週末18,19日に迫った『小鹿野町 歌舞伎・郷土芸能祭』
その目玉の演目である小鹿野歌舞伎保存会と小鹿野子ども歌舞伎合同による芝居、「日尾嶽山誉寒梅(ひおたけやま ほまれのかんばい)」。

このお芝居は、2010年に初演された≪小鹿野歌舞伎オリジナルの新作歌舞伎≫です。
今年は折しも小鹿野歌舞伎保存会結成50周年を迎えたことから、この「日尾嶽山誉寒梅(ひおたけやまほまれのかんばい)」が演じられることとなりました。

 先日そのお稽古を見学させていただきましたが、小鹿野町出身の筆者にとって、とても興味深いことがたくさんありました。

 そこで、筆者の独自視点ではありますが、皆さんに鑑賞ポイントとしてそれをお伝えしたいと思います。

 皆様が「日尾嶽山誉寒梅」をより楽しく、興味を持ってご覧いただけたら幸いです。

★point1 芝居の舞台は戦国時代、かつて小鹿野町にほんとにあった日尾城というお城です!
 小鹿野町日尾にある天然の要害に建てられていた日尾城。
日尾城は、戦国武将 北条氏邦の鉢形城の出城で、当時関東を狙っていた甲斐武田氏に対抗するためのものでした。
芝居のタイトルである『日尾嶽山・・・』の嶽山(たけやま)という表現が、その城の要害の険しい様子をよく表しています。

point2 芝居のなかに、『甲源一刀流が出てきます!
 古武道の流派である「甲源一刀流」はかつて2千人もの門弟を構えたほどの有名な武術の流派で、その道場は、なんと小鹿野町小沢口にあります!

甲源一刀流練武道場「耀武館」*写真引用 小鹿野町HPより

その甲源一刀流の開祖、逸見太四郎源義年の祖先にあたる人が、逸見若狭守義綱(へんみわかさのもりよしつな)であり、この芝居の主軸となる人物です!
そして、この芝居の中では、義綱はすでに小沢口で「甲源一刀流」の道場を開いているという設定になっています。
 小鹿野町の自慢したいところが取り上げられていて嬉しい限りです!

逸見若狭守義綱役の新井さん
逸見若狭守義綱役の新井さん

point3 芝居の中で、女衆が敵を倒します!
 なんと! 城の主である諏訪部遠江守定勝(すわべとおとおのかみさだかつ)は芝居の中で、泥酔してしまったため、敵が来ているのに起き上がることができません。

〈眠りの定勝〉役の出浦さん 眠ったふりには実は訳があり・・・


そんな時に立ち上がったのが、定勝の妻 お牧の方。お供の女性と共に勇猛果敢に敵を蹴散らします!
そこで筆者が興味を持ったのが、女衆が強く、且つ薙刀で敵と戦っていたということ

それはなぜかというと・・・、
実はこれまた古武道の話になってしまうのですが、定勝が仕えていた北条氏邦は、戸田清眼という有名な剣士から免許皆伝を得ているほどの武術の名手でした。
定勝の死後は、定勝の妻である大福御前が剣と薙刀(なぎなた)の武術を継ぎました。
大福御前が亡くなった後も、その武術は小鹿野町出身の武士である強矢家(すねやけ)によって代々受け継がれ、近世以降も道場こそ秩父地方にはないものの、「戸田派武甲流薙刀術」という流派によってその薙刀術は今日も伝えられています。
 
ここからは筆者の推察ですが、お牧の方は、北条氏邦の筆頭家老である定勝の妻であり、当然武術も達者であったことが想像されます。
したがって泥酔した定勝に代わりに、妻のお牧が敵を追い払ったという伝承も、非常に納得のいくものであると筆者は大変興味深く感じました。

牧の方役の中澤さん。強く凛々しいお牧にぴったり!

★point4 芝居の中に「武田信玄」の家来が登場します!
 戦国武将の中でも特に強いイメージのある甲斐武田勢。
その武田勢によって、当時の秩父地方はたびたび侵略され、多くの神社仏閣が焼かれたりしました。
秩父神社もそのひとつで、社殿が焼かれましたがその後、徳川家康によって再建されています。
 武田信玄はしばしば英雄のように紹介されることもありますが、秩父地方にとってはかなり迷惑!?な武将だったかもです・・・。

芝居に登場する武田家臣軍の皆さん、風林火山の御旗を背にチャリ場で芝居を盛り上げます!


point子役の「小太郎」がめちゃくちゃ賢いです!
 この芝居では子役の小太郎が大活躍します。
わずか8歳ごろのようですがとても賢い子で、百人一首をそらんじてみたり、利発で勇敢な子です。
大人顔負けの活躍ぶりなので、ぜひご注目を!
なお、セリフも風情のあるものが多いので、義太夫も含めてよく聞き耳を立てられることをお勧めします。

小太郎役の小学3年生 彩芽ちゃん


その他にも見せ場はいっぱい!

★セリフの中で、秩父の方言が出てきます!
★芝居中に、小鹿野町の名物が紹介されます!

などなどいろいろありますが、一番見て聞いて感じていただきたいのは、
台本が出来上がってきてから、歌舞伎として仕上がるまでのすべてのことを、新しく作り上げていったということです!

詳しく言うと・・・、
◆義太夫:故 柴崎宇平太夫により義太夫弾き語りの、節回しと作曲がなされました。

左:義太夫の柴崎さんが、宇平太夫の節回しなどを引き継ぎ演奏されます 
右:ツケの茂木さんも、ベテランならでは絶妙なツケを作り上げました

◆役者のセリフの言い回しと振り付け:2010年当時の小鹿野歌舞伎保存会 井上師匠により、言い回しや見得、振り付けなどがなされました。

まったく白紙の状態から振り付けなどが築き上げられました。これまでの蓄積があればこその妙技です

◆下座音楽:これまでの歌舞伎下座音楽などを中心に、アレンジして演奏されています。

三味線に若い女性の方の姿も!

◆衣装・化粧・鬘・大道具・小道具:すべて自前です!
 時代背景をしっかりと見据えた上での、大歌舞伎に引けを取らないくらいのクオリティ。
「地芝居のデパート」と呼ばれるほど、歌舞伎に関するあらゆるものが揃っている小鹿野歌舞伎だからこそできることですね。


 そして初演から13年ぶりの舞台ということで、ここでもまた新たな伝承がなされています。

2010年当時の舞台で役をやった方が、今回新たに挑戦する後輩役者を指導されているのです。

右:師匠の栗原さん
右:師匠補助の神田さん (写真にはありませんが、師匠補助、小澤さん、柝:小松さん、堀口保存会長も見守っていらっしゃいました。)

 2005年に当時の小鹿野歌舞伎保存会高橋会長が、地元在住の作家:高田哲郎氏に地域を題材にした歌舞伎台本の制作を依頼してから、およそ5年がかりで初演を果たしたオリジナル歌舞伎「日尾嶽山誉寒梅」。
 以来13年ぶりの上演となりますが、稽古風景を見ていると、『郷土の宝を後世に繋げていこう』という様々な方々の思いが伝わってくるようで、あらためて小鹿野歌舞伎の伝統の深さを痛感しました。

 小鹿野歌舞伎保存会の方々だけでなく、小鹿野町にご縁のある方にとっても、小鹿野町を誇りに思える素晴らしい芝居だと思います。

「日尾嶽山誉寒梅」
11月18日(土)は、午後1時35分~
11月19日(日)は、午後1時10分~ の開始です

 是非ご覧ください。

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