コラム「小鹿野歌舞伎手習い始め」其の七『ハナ懸け』
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東西さんによる小鹿野歌舞伎手習い始め其の七
「ハナ懸け」
前回、歌舞伎役者にとって気になることが「お客様の入り具合」と書きましたが、もう一つ
「御祝儀」も大いに気になるといえるでしょうか?
私たち地芝居の世界では、興行を行って入場料をいただき、その収入で役者の給料を払ったりするところは僅かです。
祭りの奉納や余興として上演したり、地域のお付き合いや趣味として取り組んでいるところが大半と思います。
しかし、この世界ただじゃぁできないものです。
道具などの借用や自分達でできない技術の協力にはお礼をしなくてはなりません。
稽古や芝居が終わってから打ち上げも必要です。
ではどうするか?
自分たちでお金を出し合う。
企業や行政の支援を受ける。
主催者の神社や地域が負担する。等々。
小鹿野地域では伝統的な方法として「ハナ」が行われています。
御祝儀、お祝いですね。
舞台の周囲いっぱいに半紙が掲げられ、名前と金額が書かれハナが披露されています。
花、お花とも書きますが、昔は「纏頭(はな・てんとう)」と書いたそうです。
何でも、演技者に褒美として、衣服を脱いで与え、その頭に纏わせたといいます。
古今著聞集(ここんちょもんじゅう・鎌倉時代の説話集)にも出てきますから古くからあるんですね。
贔屓の役者に一時的なその場での御祝儀として出すものをハナといいます。
さて、祭りでの歌舞伎は屋外だし、木戸銭がいらないものですから、必ずハナを懸けないと見られないものではありません。
祭り研究者八幡和郎氏・西村正裕氏著『「日本の祭り」はここを見る』では、ハナを渡すのはマナーで
「本来は地域の人のための祭りを、外部の者として楽しむのだけれども、
地域の人たちと同じようには協力できないのだから、その代わりに差し出す」
と提案しています。
筆者も共感し、よそへ行った場合はそうしています。
皆さんも案内の葉書が来るとハナを用意しますよね。秩父に住んでいると年に十回以上!大変ですね。
上飯田では、そこから奥さんをもらった人は最初の年は必ずハナをかける習わしがあります。ムコバナ(婿花)というそうですが
ずっと毎年かけ続けることが多いといいます。
花を懸けるとお酒や手拭、茶碗などを渡してくれます。これが花返し(はながえし)です。
いろいろ趣向をこらした花返しが集まりますが、昔は煙草なども出ることがありました。
そして半紙に書いて披露してくれるんですが、
小鹿野は十倍返しといって、金額が三千円なら「金三萬円也○○様与利」と書くので、
よそから来た人はびっくりしてしまします。
地域によっては芝居なので四倍に書いたり、金一封と書くとか、朱墨で熨斗(のし)を海老のように書いたりします。
披露の半紙が壁いっぱいとか小屋じゅうに掛かっているのは気分がいいですね。
筆者も小鹿野歌舞伎を常日頃応援している訳なので、贔屓筋として、これっきりというくらいハナを懸けたいものです。
(東西)