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「小鹿野歌舞伎手習い始め」其の九『安達三、太十』

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毎週金曜日更新!
東西さんによる小鹿野歌舞伎手習い始め其の九
「安達三、太十」

 

小鹿野歌舞伎に長くおつきあいいただくと、いろいろな演目をご覧いただくことになります。

今度の出し物は?とお問い合わせいただいた時、「たいじゅう」です。とお答えできれば楽なのですが、

「絵本太功記十段目尼ヶ崎閑居之場(えほんたいこうきじゅうだんめ あまがさきかんきょのば)」

と正確に言っても、「はぁ?もう一度お願いします」と聞き直されるような気がします。

絵本太功記十段目尼ヶ崎閑居之場

絵本太功記十段目尼ヶ崎閑居之場

まぁ歌舞伎関係者どうしでは隠語で通じてしまいますが、「体重」と聞こえないようにしましょう。

歌舞伎の演目名は台本の正式名称でなく、通称のことがあります。
長い題名の一部を略したり、主人公の名になっていたり、有名な場面の名であったりします。

 

「寿曽我対面工藤館之場(ことぶきそがのたいめんくどうやかたのば)」は、「対面」、

寿曽我対面工藤館之場

寿曽我対面工藤館之場

「菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)」は「車引(くるまびき)」「寺子屋」ですね。

大歌舞伎では「車引」は「三つ子(みつご)」というそうです。延享3年(一七四六)大坂で三つ子が生まれたというニュースをもとに菅原伝授手習鑑を脚色したということです。

菅原伝授手習鑑 車引

菅原伝授手習鑑車引之場

 

それでは「あださん」とは何でしょう?

「奥州安達原三段目袖萩祭文之場(おうしゅうあだちがはらさんだんめそではぎさいもんのば)」を略して「安達三(あださん)」といいます。

大歌舞伎では「環宮明御殿之場(たまきのみやあきごてんのば)」、「袖萩祭文」ともいわれます。地芝居で人気のある演目です。

奥州安達原三段目袖萩祭文之場

奥州安達原三段目袖萩祭文之場

いつだったか小鹿野歌舞伎の重鎮にあださんの魅力を聞いたところ、
「う~ん、あださんは、あださんだから、やっぱりあださんなんだいなぁ」と煙に巻かれてしまったことがあります。

源義家に敗れた安倍貞任・宗任(さだとう・むねとう)兄弟が奥州で再挙を図る物語ですが、派手な演出が多く役者にも観客にも好まれています。

 

役者がやりたがる役といえば「勘平(かんぺい)」です。

「仮名手本忠臣蔵六段目勘平腹切之場(かなでほんちゅうしんぐらろくだんめかんぺいはらきりのば)」

自分のために身を売るおかると別れ、訳あって切腹する薄幸の若侍の哀れを美的に演じる役は、格好いいものです。

仮名手本忠臣蔵六段目勘平腹切之場

仮名手本忠臣蔵六段目勘平腹切之場

昔の人にやりたい役を聞くと「勘平、勘平」とまるで「観兵式(天皇が兵を閲した式)」だと言ったそうです。

小鹿野では忠臣蔵は「五段目」「六段目」「七段目」で通用しますね。
ちなみに、五段目は「山崎街道鉄砲渡し之場、二つ玉之場」、七段目は「祇園一力茶屋之場」です。

 

小鹿野でよく演じられる「義経千本桜(よしつねせんぼんざくら)」は「伏見稲荷鳥居前之場」を「せんぼん」、「釣瓶鮓屋之場」は「すしや」と呼びます。

義経千本桜伏見稲荷鳥居前之場

義経千本桜伏見稲荷鳥居前之場

「鮓」は、なれずし、「鮨」はにぎりずし、って知っていましたか?

「渡海屋」(とかいや=二段目渡海屋・大物浦の場)や「四の切」(しのきり=四段目河連法眼館の場、物語の決着がつくので切という)も、小鹿野歌舞伎で観たいものですね。

 

さて、小鹿野歌舞伎の十八番「一谷嫩軍記」(いちのたにふたばぐんき)は熊谷直実が平敦盛を討って出家し、また岡部六弥太が平忠度を討ったことを脚色したものです。

この二段目「一谷陣門之場、須磨浦之場、組討之場」は、「陣門、組討(じんもんくみうち)」と言っています。

一谷嫩軍記須磨の浦陣門・組討之場

一谷嫩軍記須磨の浦陣門・組討之場

「菟原の里林住家之場」(うばらのさとはやしすみか)は、単に「あばらや」といいます。

太五平・林親子が住む貧家を言ったものですが、なかなか見慣れていないと使えません。

そして三段目「熊谷陣屋之場」は「陣屋」で通用します。よその地芝居では「谷三(たにさん)」ともいうそうです。

 

最後に平成24年に津谷木の子どもたちが演じた「蝶花形名歌嶋台小坂部館之段」(ちょうはながためいかのしまだいおさかべやかたのだん)」ですが、

小鹿野町内では六十年以上上演されていなかったせいか? 略称まで伝わっていなかったようです。

(東西)

 

*掲載の写真は一部を除き、WEBガイド秩父( https://www.chichibu.co.jp/topics/location/ogano_culture/ )及び、小鹿野町公式ホームページより引用させていただきました。

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