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コラム「小鹿野歌舞伎手習い始め」其の四『チャリは難しい!』

小鹿野歌舞伎 おがの 小鹿野 チャリ場 東西 歌舞伎 手習い始め 
毎週金曜日更新! 全10回

東西さんによる「小鹿野歌舞伎歌舞伎手習始め」其の四

「チャリ」は難しい!

 

宴会などで物まねや踊りで場を沸かす人がいると、「いいチャリ師がいるね!」ということがあります。

これも歌舞伎の言葉なのですが、「茶利」は滑稽な文句や動作のことです。
「茶利場・茶利声」は滑稽な場面・声、「茶利敵」はおかしみを帯びた敵役という風に使われます。

チャリ師というのは当地で茶利の得意な役者を敬意を込めて呼ぶようになったのでしょうか。

小鹿野でよく演じられる「義経千本桜伏見稲荷鳥居前の場」では静御前をわがものにしようと早見の藤太が現われ、家来と駄洒落の入る茶利場を展開します。

家来に褒美を与えようと言うのですが何を言っても嫌いという訳です。


客席に向かい「その方たち、女はどうじゃな、ほれ今日は美人が大勢来ておるぞ…」とか「○○屋のかつ丼はどうじゃな…」など地元ではお馴染みの台詞で沸かせています。

子ども歌舞伎でも「テレビゲームはどうじゃな…」というと、「お母さんにしかられるので嫌いでございます」とか「テレビゲームはお父さんが夢中になってしまうので嫌い…」とか可愛らしいものもあります。

あまり上演されないのですが「寺子屋」を口(台本の冒頭)から演じると、寺入りの小太郎を連れて来た千代の従者三助がよだれくりと掛け合いで演じる「おっちゃんが持って来たその餅を…」などの場面は、

チャリ師が揃うと客席を巻き込んで大笑いとなり人気があるところです。

大歌舞伎でも茶利場は多く、例えば「松竹梅湯島掛額」(平成8年に小鹿野で中村福助丈に上演していただいた「櫓のお七」も入る幕です)は別名「御土砂」といい、
祈祷に用いる御土砂(死体にかけると硬直が直るという砂)を生身の人間にかけてしまうと急にふにゃふにゃになってしまい勝手な台詞を言い始めて大騒ぎとなり、
笑いをとる場面が人気があります。

余談ですが、昔は、真面目すぎる人物に「少し御土砂を掛けた方が良い」といった使い方もありました。
普段は二枚目や立役で格好良く演じる役者も、どうしてあそこまで変われるかというぐらいお客にサービスするんですが、芸の力ってすごいものですね。

「本職」の役者はいかにして観客を喜ばせるかという高い技術を身につけていることに感心してしまいます。

合戦や敵討ちなど息の詰まる演目の中でふっと気を抜ける茶利場の効用は大きなものですが、地芝居の世界では、茶利場は誰がやっても受けるというものではありません。

素人が年1回演じるくらいのことではなかなか難しいものです。でも同じ地域で普段から呼吸を合わせて冗談を言い合うようなお付き合いをしていると見事な茶利場が演じられるものです。

さて、今年の歌舞伎・郷土芸能祭では久々の「絵本太功記九段目」「茶利場のある歌舞伎が上演されます。

役者諸氏には大真面目に、そして一層の御精進をなさって御贔屓を沸かせてください。

(東西)

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