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コラム「小鹿野歌舞伎手習い始め」其の三『世話物と時代物』

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毎週金曜日更新! 全10回

東西さんによる「小鹿野歌舞伎歌舞伎手習始め」其の三

「世話物と時代物」

小鹿野歌舞伎の役者に次の狂言(出し物)は、何が良いか相談する時によく聞くせりふがあります。

「セワモンは難しい、やってもハデナイしなぁ……でも、セワモンもいい芝居があるんだよなぁ」

ここで言うセワモンとはもちろん歌舞伎の「世話物」のこと。江戸時代の町人社会におこった事件などを題材に、町人が主人公となって物語を展開する芝居をいいます。

世話というのは日常的とか庶民的という意味で人情・風俗もあらわします。小鹿野歌舞伎では多くは演じられませんが「三人吉三」「阿波の鳴門」「冥土の飛脚」「四谷怪談」などが代表的です。

(写真、「三人吉三」)
これに対する言葉は「時代物」です。

江戸時代およびそれ以前の事件・人物を題材としたもので、おもに有名な武将の軍記を芝居にしたもの、
おなじみの「絵本太功記十段目」「一谷嫩軍記熊谷陣屋」「奥州安達原三段目」「菅原伝授手習鑑」などをいいます。

これらを総称して小鹿野ではよく「ドドンジャジャン」 といいます。
芝居の中で勇ましい太鼓・鉦の音がドドーン、ジャジャーンと響くと武将役の役者がカッコ良く見得を決める派手な場面が多い芝居です。

さて、なぜ世話物は人気が無く敬遠されてしまうのでしょうか。

ベテランの方に伺うと、義太夫の語りや三味線の音がほとんど無いので、自分のせりふと相手役のせりふを呼吸よく続けていかなければならない。

義太夫が語る心理状態や背景を自分の振りとせりふ・表情で感情ゆたかに演じなければならない、難しいんだ、というものです。

確かに素人が年1回、お祭りに演じる芝居ですから写実的な演技を要求することも大変ですし、個人の技術のバラツキもある環境では世話物を演じると芝居にならないということでしょうか…。

地芝居で重要なことは、プロの役者の歌舞伎を真似してみんなで楽しむということや、日常とは違う世界の役を演じられる変身の願望を果たすことでしょうか。

歌舞伎を演じる機会の少ない時代では、普段着ているものと大差ない木綿の衣裳を着て日常的なせりふの世話物を演じるよりは、
きらびやかな金糸銀糸の刺繍の衣裳や甲冑を身につけ華やかな大道具の中で御大将、英雄、豪傑に成りきれる時代物が人気があったことは疑いの無いことだと思います。

日本中で「太十」や「安達三」が演じられる背景には、やって「ハデル(派手)」芝居がやりがいがあったということでしょうか。

しかし、「しらざぁ言って聞かせやしょう…」や
(写真、「浜松屋」)

「こいつは春から 縁起がええわえ…」のおなじみのせりふが示すとおり痛快な人情話や駆け落ちのお芝居も日本人は大好きです。

世話物もレパートリーに入ってくると歌舞伎に対する親しみが増すのではないでしょうか、これには経験をつまなければなりませんが一層勉強を進めて参りましょう。

ところで今年の歌舞伎・郷土芸能祭には「五人男」、「熊谷陣屋」などが上演されます。

各一座のお手並み拝見といきましょうか。

(東西)

*一部写真は、小鹿野町公式ホームページより引用させていただきました。

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