コラム「小鹿野歌舞伎手習い始め」其の二『大向う』
東西さんによるコラム「小鹿野歌舞伎手習い始め」其の二
「大向う・掛け声」
大歌舞伎を見に行くと「成駒屋(なりこまや)!」とか「音羽屋(おとわや)!」というように、
役者の出入りや演技が高潮した瞬間を狙い、盛んに掛け声がかかっています。
芝居で贔屓(ひいき)の役者に声援をおくることを「大向うから掛け声がかかる」といいます。
芝居小屋の向桟敷(むこうさじき)の後方にあり、舞台から一番遠い席のため、敬意を表して「大向う」と呼ばれるようになったといいます。
この席にはいわゆる歌舞伎にうるさい「通」の人々が何度も芝居を見るために集まっていて、この人々の賞賛を得ることを
「大向うをうならす」といって大きな人気を集めることを表します。
小鹿野のお祭り芝居では、「待ってました!」「○○ちゃーん!」とか「出来た、出来た!」「日本一!」というように
先輩や友だちが顔なじみの役者に掛け声を掛けています。
けれどもこれが文化センターや出張公演先などでは、シーンとしてしまうんですよね。
こういう場所では「芸術」とか「文化財」なんていう敷居ができてしまうんでしょうか?
役者が一所懸命に芝居をしているところへ割り込んで声を出すというのは勇気のいることですが、
掛ける方も芝居にのめり込んで興奮ぎみになると案外できるものです。
独特な間合いで状況に見合った巧みな掛け声は、舞台の雰囲気を盛り上げ、役者の演技を際立たせます。
役者も声がかかった方が演じやすくなります。
どうか小鹿野歌舞伎のご贔屓様におかれましては、ぜひ大向うからのご声援をお願いいたします。
それでは何と掛け声をかけたらよいのでしょうか。
秩父歌舞伎正和会では役者たちの職業から新たに屋号を考え、すじ書きに記しているので親切な方法です。
かつての当地域の一座芝居の系統から秩父歌舞伎は喜熨斗屋(きのしや)系、
小鹿野歌舞伎は音羽屋系(大和座)といわれていますので音羽屋でもよいと思いますが…。
ちなみに小鹿野歌舞伎保存会の名役者であった黒沢助男氏(二代目坂東三津十郎)の屋号は大和屋でした。
若い役者や子ども歌舞伎も頑張っていますから何かふさわしい掛け声を考えるとしましょうか。
(東西)